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労災弁護士コラム

建設現場の転落(墜落)事故と安全帯の不適切使用

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1. 転落(墜落)事故による書類送検

熊本労働基準監督署は、震災復興に関連した工事現場における転落(墜落)事故に関し、安全帯の使用などに関する安全対策を怠った建設業者を労働安全衛生法第20条違反の容疑で平成30年3月20日付で書類送検したとの報道がありました。
このような建設現場の転落(墜落)事故は後を絶ちませんし、その際に安全帯が適切に使用されていないケースは非常に多いです。

2.安全帯とその使用義務について

安全帯とは、高所作業中の転落(墜落)事故から労働者を守るために用いる命綱がついたベルトのこといい、命綱としてのロープと、体に取り付けるベルト、ロープを支持物に固定するためのフックから成ります。
高所作業が多くなる建設現場では、高所作業中の安全帯の使用が義務付けられています。
具体的には、労働安全衛生法第21条2項で事業者は「必要な措置を講じなければならない」とし、その具体的な内容として、労働安全衛生規則518条で安全帯の使用が義務付けられています。

労働安全衛生法第21条2項
事業者は、労働者が転落(墜落)するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
労働安全衛生規則518条
事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において転落(墜落)により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等転落(墜落)による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
3.安全帯の不適切使用で生じる転落(墜落)事故のパターンと義務違反の内容

安全帯の使用に問題があって生じる建設現場の転落(墜落)事故には以下のようなパターンがあります。

① 安全帯の用意がないパターン
杜撰な建設現場では安全帯そのものを用意せずに、労働者に作業を行わせる場合があります。
このような場合に転落(墜落)事故が生じたら、高所作業での危険に対し、必要な措置を講じていなかったことになりますので、事業者の労働安全衛生法21条は明白です。

② 安全帯は現場に存在していたが装備していなかったパターン
安全帯は現場に存在していたが、転落(墜落)事故時に労働者が安全帯を装備していなかった場合には、なぜ装備していなかったのかが大きく問題となります。
事業者から安全帯が支給された場合、労働者には用意された安全帯を使用して作業を行う義務があります(労働安全衛生規則520条)。
もし、労働者が安全帯の装着を怠っていたような場合にはこの義務に違反しますので、事業者に責任追及することは困難といえます。
もっとも、現場によっては、安全帯のロープを固定するための適当な支持物がないなど、用意した安全帯が物理的に使用できないような場合も存在します。
そのため、転落(墜落)事故の責任の事業者に追求することができるか否かは、どのような理由で安全帯を使用しなかったかを解明することが重要です。

③ 安全帯を装備していたが作業内容と安全帯の規格が合致していないパターン
安全帯を装備していたが、転落(墜落)時にロープが切れたり、フックが外れたりするなどして、転落(墜落)事故が生じる場合もあります。
この場合、転落(墜落)事故時に身に着けていた安全帯の状態や製品の「規格」が適合したものであるかを確認する必要があります。
安全帯の規格については、労働安全衛生法42条施行令第13条第28号及び平成14年厚生労労働省告示第38号により定められており、この規格に適合した安全帯の使用は労働安全衛生規則27条により義務付けられています。
そこで、安全帯のロープ部分やフック部分が規格よりも耐久度の低いものを使用していいたりする場合には、法に定めた規格外のものを使用していたことになるので、義務違反となります。
また、安全帯にはその使用用途に応じて、大まかに「1本つり安全帯」と「U字つり安全帯」の2種類があります。
このうち、1本つり安全帯は安定した足場のある作業場所での作業を前提にした安全帯であり、転落時の命綱としての目的で使用します。
U字つり安全帯は十分な足場が確保できない作業場所で安全帯に自身の体重を預けながら作業を行うことを目的とした安全帯です。
上記二つの安全帯は用途が異なることから、使用するロープやフックなどの規格もそれぞれ異なり、常にロープに体重を預け続けることを想定しているU字つり安全帯のロープは1本つり安全帯のロープよりも太い頑丈であることが求められます。
U字つり安全帯の使用が求められるような作業で1本つり安全帯を装備して作業を行っていたような場合には規格に合った安全帯のしようとはいえない可能性があります。
少なくとも、現場を統括する作業主任者においては、作業に応じた適切な安全帯を選定する義務があるといえますので、作業主任者の職務懈怠の責任問題が生じるでしょう。

4.転落(墜落)事故が起こった時の対応

以上のように建設現場の転落(墜落)事故における安全帯の不適切使用には様々なパターンがあります。
転落(墜落)事故が起こった場合には、その原因は早期に解明し、現場を保全する必要があります。
事故から長期間経過すると現場に安全帯が存在したか否かは不明確になりますし、具体的にどのような作業中の事故で、その作業では安全帯を使用できなかったなどの重要な情報が曖昧なままに処理されてしまいます。
事業者に対し労災事故の損害賠償を請求したい場合には、事故が起こった責任問題を解明するために、できるだけ早期にご相談されることをおススメします。

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