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労災弁護士コラム

醜状障害と損害賠償について

投稿日:2021年6月7日 更新日:

目次(もくじ)

1 はじめに

労災事故により、擦過・打撲傷を負ったり、その後の手術等により、体に傷あとや色素沈着などが残ることがあります。また、製造や清掃の現場では、強力な薬品を取り扱うこともあり、それが誤って体に付着することにより火傷を負うこともあります。その傷あとや火傷のあとが、線状、瘢痕、ケロイドなど、様々な形状として残ってしまうことがあります。

労災保険では、このような傷あとが残った場合に、その部位や大きさにより、醜状を理由とする後遺障害として等級が定められています。とりわけ、頭部、顔面部、頚部といった手足以外の日常的に露出する部分を「外貌」と言い、外貌の醜状については、後遺障害等級上、手足のそれとは区別して等級が定められています。

本稿では、これら外貌の醜状障害が残存した場合を中心に、その損害賠償に関する実務上の問題点を解説いたします。

2 醜状障害の類型

まずはどのような醜状障害が労災において後遺障害に該当するのかについてご説明します。

後遺障害としての醜状障害には、前述のとおり、頭部・盤面部・頚部の外貌か否か、その大きさ・程度により、後遺障害等級が定められています。

外貌の醜状

頭部、顔面部、頚部といった手足以外の日常的に露出する部分である外貌については、後遺障害7級、9級、12級と3つの等級があります。

外貌に著しい醜状を残すもの(7級)

「外貌に著しい醜状を残すもの」と評価される場合、後遺障害7級に該当します。

後遺障害7級に対する慰謝料は、いわゆる裁判所基準で1030万円にもなります。

外貌に著しい醜状を残すものとは、頭部にあっては、てのひらの大きさ以上の瘢痕や頭蓋骨がてのひら大の大きさ以上の欠損している場合をいいます。

顔面部にあっては、鶏卵の大きさ以上の瘢痕か10円硬貨大以上の組織陥没がある場合をいいます。

頚部にあっては、てのひら大以上の瘢痕が残る場合をいいます。

いずれも、人目につく程度以上の醜状が対象とされています。

なお、瘢痕の大きさを測るうえで「てのひら大」という基準が出てきますが、ここには指の部分は含みません。

外貌に相当程度の醜状を残すもの(9級)

「外貌に相当程度の醜状を残すもの」と評価される場合、後遺障害9級に該当します。具体的には、顔面部に長さ5センチメートル以上の線状痕が残る場合をいいます。

顔面の線状の傷が複数ある場合には、それぞれの長さを合計して判断することになります。

後遺障害9級に対する慰謝料は、670万円とされています(裁判所基準)。

外貌に醜状を残すもの(12級)

「外貌に醜状を残すもの」と評価される場合、後遺障害12級に該当します。具体的には、頭部にあっては、鶏卵大以上の瘢痕か頭蓋骨に鶏卵大以上の欠損が残った場合がこれに該当します。

顔面部については、10円硬貨大以上の瘢痕か長さ3センチメートル以上の線状痕が残る場合がこれに該当します。

頚部にあっては、鶏卵大以上の瘢痕が残る場合がこれに該当します。

複数の瘢痕や線状痕が残る場合

労災事故の被害にあった場合、同一の部位に複数の傷を負うことも珍しくありません。その傷あとが残る場合の考え方についてご説明します。

例えば、右頬に2.5センチメートルの線状痕が2か所残っていた場合を想定します。この場合、ひとつの傷では3センチに満たないので、後遺障害12級にも該当しないように思えます(12級は、顔面部に長さ5センチメートル以上の線状痕)。

しかし、労災における後遺障害認定の運用上、2個以上の瘢痕や線状痕が相隣接し、または相まって1個の瘢痕や線状痕と同程度以上の醜状をみられる場合には、その面積、長さを合算して認定するものとされています。

上の例でいいますと、右頬2か所の傷が相隣接するものである場合には、それぞれを合算すると合計5センチメートルとなり、「顔面部に長さ5センチメートル以上の線状痕」が残る場合として、後遺障害9級に該当する可能性があります。

外貌以外の醜状

以上が、頭部、顔面部、頚部といった外貌に関する後遺障害の類型です。次に、外貌以外の醜状に関してご説明します。

外貌以外の醜状障害については、露出面か否かによって分類されます。

露出面の醜状

労災における後遺障害認定では、上肢または下肢の露出面を対象として、後遺障害等級が規定されています。

この「露出面」とは、上肢についてはひじ関節以下(手部分を含みます。)をいい、下肢についてはひざ関節以下(足背部を含みます。)をいいます。つまり、上腕と大腿部は「露出面」には該当しません。この点は、交通事故における自賠責保険の後遺障害とは範囲がことなりますので、ご注意ください(例えば、通勤災害で、ひじ関節に醜状障害を負ったというケースで、労災と自賠責の双方で後遺障害の申請をした場合、それぞれで後遺障害の当否が異なることになります。)。

上肢または下肢の露出面につき、てのひら大の醜状が残った場合に、後遺障害14級に該当します。

この「てのひら大」に指の部分を含まないことは、上記と同様です。

さらに、両上肢または両下肢について、露出面の1/2程度以上の醜状を残す場合には、12級に該当(準用)します。

露出しない部分の醜状

以上が露出面に関する後遺障害の説明でした。これ以外の露出面以外についても、その部位・瘢痕の程度により後遺障害が規定されています。

具体的には、

・両上腕または両大腿については、ほとんど全域にわたる醜状

・胸部または腹部については、各々の全域にわたる醜状

・背部及び臀部については、その全面積の1/2程度を超える醜状

については、12級に該当(準用)します。

・上腕または大腿については、ほとんど全域にわたる醜状

・胸部または腹部についてはそれぞれ各部の1/2程度を超える醜状

・背部及び臀部についてはその全面積の1/4程度を超える醜状

については、14級に該当(準用)します。

以上を部位ごとにまとめると、次のようになります。

頭 部
7級 外貌に著しい醜状を残すもの 頭部にてのひら大(指の部分は含みません。)以上の瘢痕または頭蓋骨のてのひら大以上の欠損
12級 外貌に醜状を残すもの 頭部に鶏卵大以上の瘢痕または頭蓋骨に鶏卵大以上の欠損
顔面部
7級 外貌に著しい醜状を残すもの 顔面部に鶏卵大以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没
9級 外貌に相当程度の醜状を残すもの 顔面部に長さ5センチメートル以上の線状痕
12級 外貌に醜状を残すもの 顔面部に10円硬貨大以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕
頚部
7級 外貌に著しい醜状を残すもの 頚部にてのひら大以上の瘢痕
12級 外貌に醜状を残すもの 頚部に鶏卵大以上の瘢痕
上肢・下肢の露出面
14級 上肢・下肢の露出面にてのひら大の瘢痕
露出面以外
12級 両上腕または両大腿については、ほとんど全域にわたる醜状
胸部または腹部については、各々の全域にわたる醜状
背部及び臀部については、その全面積の1/2程度を超える醜状
14級 上腕または大腿については、ほとんど全域にわたる醜状
胸部または腹部についてはそれぞれ各部の1/2程度を超える醜状
背部及び臀部についてはその全面積の1/4程度を超える醜状

 

3 醜状障害による逸失利益

醜状障害の逸失利益の問題点

醜状が後遺障害に該当すると認定された場合、その後遺障害に対する損害賠償の項目として、後遺障害慰謝料と逸失利益が考えられます。

逸失利益とは、後遺障害の影響で、将来得られたであろう仕事の収入等が失われることを理由にする損害をいいますが、醜状障害を理由とする後遺障害の類型では、逸失利益が争点となることが多々あります。なぜなら、身体のどこかに傷あとが残ったとしても、通常、そのことによって労働能力が低下することはないのではないかと考えられるからです。

このような観点から、醜状障害を理由とする後遺障害の事案では、逸失利益の有無や金額が争いとなり、この点に関する裁判例も多くみられます。以下では、逸失利益が認めらえた事例のうち、いくつかの裁判例をご紹介します(なお、掲載している裁判例は交通事故被害に関するものも含まれますが、逸失利益の考え方は労災被害の場合も同様です。)。

醜状障害に関する裁判例

前額部に線状痕が残存した女性・介護士兼主婦

症状固定時44歳の女性・介護士・主婦で、眉間部から前額部にかけて長さ9.5センチメートルに及ぶ線状瘢痕につき後遺障害(現行の等級で第9級)認定を受けた事案につき、現在でも始終人目を気にしている状況にあり、労働効率の点などに悪影響が及んでいると考えられること、前額部のつっぱり感は現在まで常に続いており、傷痕部分に手などが触れると電気が走ったようなしびれ感があること、本件事故による減収は認められないが、自身が就労に対する後遺障害の悪影響を最小限度に抑えるために日々相当程度の努力を重ねていること、今後、仮に原告が転職するとした場合、後遺障害による不利益の発生が考えられることなどから、就労可能年数までの23年間20%の労働能力の喪失を認めました。

(神戸地裁平成25年11月28日判決)

眉間に線状痕が残存した女性・介護職

症状固定時45歳の介護士の女性で、眉間の部分に人目につく長さ3センチメートル以上の線状痕につき後遺障害12級(頚部痛や腰部痛とあわせて併合12級)の認定をうけた事案につき、介護の仕事は、日常的に他人と接し、介護というサービスを提供する職業であって、円満な人間関係の形成と介護という意思疎通が必要とされるものであること、また、年齢等に照らして今後転職する可能性も否定できないことなどを考慮すると、外貌醜状が労働能力に影響をもたらすと認められるとしたうえで、後遺障害の部位・程度、性別、年齢、現在の職業等を考慮して、就労可能年数までの期間10%の労働能力の喪失を認めました。

(横浜地裁平成26年1月30日判決)

口唇部に瘢痕が残った男性・自動車運転手

症状固定時41歳の男性・自動車運転手で、口唇部に長さ5センチ以上にわたり挫創後の線状痕が残存し、後遺障害9級と認定された事案につき、人目につき程度のものであること、初対面に近い顧客との折衝に消極的になっていること、社内の評価が落ちて将来の昇進や転職に影響する可能性が否定できないこと等から、27年間25%の労働能力の喪失を認めました。

(さいたま地裁平成27年4月16日判決)

醜状障害の逸失利益の考え方

以上の裁判例を見ても、醜状障害に関する逸失利益の判断は、事案ごとに様々です。

醜状障害の場合、そもそも労働能力に影響があるかということ自体が争われ、その判断にあたっては、醜状の部位・内容・程度に加え、被害者の職業(事故前後)、将来の転職可能性までもが要素となります。

また、これまでの裁判例では、逸失利益が否定され、あるいは低額と判断される場合に、慰謝料額を通常より増額して救済を図る判断も見られます。もっとも、このような慰謝料の増額も、機械的に認められるものではなく、例えば外貌醜状の影響により対人関係が消極になってしまうなどといった、逸失利益としては評価しきれない(いわば間接的な)影響が認められる場合に、これを精神的損害として評価するという理屈によるものと考えられます。

5 まとめ

このように、醜状障害を理由とする後遺障害については、まず適正な後遺障害等級認定を受けることが不可欠です。

そのうえで、醜状障害を理由とする逸失利益の損害賠償を求めるにあたり、醜状の程度やそれによる職業への影響を具体的に説明することが、示談交渉や訴訟において重要となります。

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