【体調不良による退職に対して、会社から圧力や損害賠償を受けた場合の対応について】
過重労働により,体調に不調を来した場合,症状によっては仕事を休まざるを得ない場合もあります。より症状が重い場合には復帰することも叶わず,退職も考えなければならないケースもあるでしょう。
ところが,過重労働により労働災害に遭った被災労働者が,退職を申し出たのに対し,会社側が,人が足りていない,急に言われても引継ぎはどうするのだ,などと言い,退職を認めないということも珍しくありません。
勝手に会社を辞めたりして仕事に穴を空けるようなことになれば,会社から損害賠償を請求されるのではないか,などと不安に思われる方も少なくありません。
今回は,このようなケースにおいて,実際に会社側が損害賠償を求めたのに対し,裁判所が判断したケースを紹介します。
この件は,精神疾患でやむなく会社を退職した男性が,元勤務先の会社から,退職は詐病による一方的なものだとして約1270万円の損害賠償を請求されたというものでした。この裁判の中で,男性側は,会社がそのような訴訟を起こすことは不当だとして,反訴(訴え返すこと)を起こしました。
これに対する裁判所の判断は,会社から男性に対する損害賠償請求は否定し,逆に男性から会社に対する損害賠償について,110万円の支払いを命じました。
裁判所は,会社から男性への損害賠償請求に対しては,男性は詐病ではなく,また,会社の主張する損害と男性の退職との間に因果関係はないと判断しました。他方で,男性から会社への損害賠償請求に対しては,「月収の5年分以上もの大金を損害賠償請求することは,裁判の趣旨に照らして著しく相当性を欠く」として,会社による損害賠償請求の違法性を認めました。
一般に,上記と同様の会社から元従業員に対する損害賠償請求が,すべて違法というものではありません。不法行為上の違法性が認められるかは程度の問題もあり,個別の事案に即した判断とならざるを得ません。
しかし,実際にこのような裁判所の判決が出ており,ニュースでも取り上げられていることもあるので,会社側が退職した従業員に対し,退職を理由として損害賠償を請求するというのは,より慎重にならざるを得ないでしょう。
過重労働により体調に不調を来し,退職も考えているという方で,会社から圧力を受けている方は,一度弁護士にご相談ください。