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労災弁護士コラム

民法の法定利率の改正と逸失利益への影響

投稿日:2021年1月30日 更新日:

 

目次(もくじ)

 はじめに

2020年(令和2年)4月1日、改正民法が施行されました。それに伴い、法定利率5%から3%に引き下げられました。この改正が労災請求する項目のうちの1つ、逸失利益に与える影響についてお話します。

 法定利率と逸失利益

過去のコラムでも書いていますが、労災が発生した場合、労災保険から支払われるものと、会社へ請求するものがあります。(~労災保険において補償されるもの~)。そして、法定利率が大きく関係するのは、会社へ請求する逸失利益のうち、死亡又は後遺症(後遺障害)による逸失利益です。

逸失利益の算定方法

逸失利益とは、その事故がなかったら将来にわたり得られたであろう利益のことです。

労災の逸失利益を算定するにあたっては、交通事故とパラレルに考えることが一般的ですので、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(いわゆる赤い本)を参考にします。

死亡による逸失利益の算定方式は、

基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数  です。

また、労災に遭うのは有職者であるため、後遺症による逸失利益の算定方式は、

基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数  となります。

これらの算定方式(計算式)のうち、法定利率の変更により影響を受けるのが「ライプニッツ係数」と呼ばれるものです。

 

ライプニッツ係数とは

死亡又は後遺症(後遺障害)による逸失利益は、将来にわたり得られたであろう利益、つまり将来にわたりその都度得られたはずの利益をいいます。例えば、(事故がなければ)定年まで賃金が毎月支払われていたであろう、ということです。

しかし、将来の数年間にわたる金額を一時に全額請求するため、早く得られることによる利息(中間利息)を差し引く必要があります。現金を保有すると、利息を得ることができるからです。そして、一般的に資本の運用は複利で行われるため、複利法を用いて算出した係数が「ライプニッツ係数」と呼ばれています。このライプニッツ係数を乗じる(掛ける)ことで「中間利息控除」を行うのです。

ライプニッツ係数を算出する際には年利率を用いており、この年利率は民法所定の法定利率によらなければなりません(最判平成17年6月14日民集59巻5号983頁)。

そのため、民法の法定利率の変更がライプニッツ係数に影響することになります。

 改正民法の条文

法定利率の改正

まず、法定利率の改正について、改正民法は、

第四百四条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。

2 法定利率は、年三パーセントとする。

3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。

(4項、5項は法定利率の算定方法の規定であるため省略)

と規定されています。

改正前民法では法定利率が5%であったため、2%も下がりました。改正前民法は明治期に制定されて以来変更されたことはなく、昨今では他の金利を大きく上回る状態が続いており、利息や遅延損害金の額が著しく多額となっていたためです。また、ライプニッツ係数の計算上、利率が高いほど係数が小さくなるため、賠償額が少なくなってしまっていたことも引き下げられた理由です。

中間利息控除の規定の新設

そして、中間利息控除についても民法改正により規定が新しく置かれました。蓄積した判例を条文化し明確にすることと、法定利率の変更に伴い、いつの時点の法定利率を用いて中間利息控除を行うかという問題をクリアするためです。

(中間利息の控除)

第四百十七条の二 将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。

2 将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。

この規定は、中間利息控除を用いる必要があるときには、損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用いることを明確にしています。将来法定利率が下がることがあっても、損害賠償請求権が生じた時点の法定利率により逸失利益を算定することになります。

また、「損害賠償請求権が生じた時点」がいつかによって、何%の利率になるのか変わる可能性があります。労災が発生し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることになった場合、一般に、不法行為の場合は、損害賠償請求権が生じるのは労働災害に被災した日になりますので、その日の民法の法定利率が適用されることになります。そして、後遺障害の症状固定時が争点となったときでも、法定利率は損害賠償請求権が生じた日、つまり被災した日のものが用いられることも明確になったのです。

 

 おわりに

中間利息控除は上で述べたとおりですが、労災を請求する場合には、どの時点の法定利率や中間利息控除が適用されるのかに加え、時効や請求の相手方などの問題もあり、より有利になるよう判断するのは困難であることが多いため、労働問題に強く労災も多く取り扱う弁護士に相談するのが一番と思います。

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