目次(もくじ)
1 はじめに
労働災害に被災した場合、この後、どのような手続が行われるのか。
重い後遺症が残った場合に会社に損害賠償できるのか。
もし、損害賠償を行うとしても、どのような手順で行っていくのか。
様々な疑問が生じると思います。
以下では、労働災害に被災し、会社に損害賠償を行う場合の手続の流れについて、順をおって説明していきます。
2 労働災害に被災した直後の手続・対応
⑴ 必ず労災保険を使うこと
まず、不幸にも労働災害に被災してしまった直後は当然ながら病院に搬送されます。
その際、気を付けなければならないことは、必ず労災保険による手続で治療を受けることです。
「労災隠し」という言葉があるように、労災保険を使うことを嫌い、受傷した原因を業務上の災害ではないとして、隠ぺい処理を行おうとする事業者が少なからずいます。
もし、事業者から「治療費や休業補償は十分にするから労災は使わないでくれ」とお願いされても、それに応じることはお勧めできません。
労災保険以上の手厚い補償を事業者が行うことは期待できないからです。
⑵ 事故状況について注意を払うこと
また、労災が発生した場合、事業者は速やかに「労働者死傷病報告」と呼ばれる書類を管轄の労働基準監督署に提出する義務があります。
この労働者死傷病報告には、労災事故の発生状況が記載されています。労働基準監督署はこの記載状況を確認し、もし、問題がある場合には事業者の労働環境等について指導を行います。
したがって、労働者死傷病報告の虚偽の記載がある場合には、労働基準監督署の監督が十分に行われないことになり、事業者の労働安全衛生法違反が見逃されることになります。
例えば、転落事故の場合に4メートルの場所から転落するのと、1.5メートルの場所から転落するのとでは、労働基準監督署の対応が全く違ってきます。
そのため、この労働者死傷病報告の記載内容について、必ず目を通し、事業者に不利な事実が隠蔽されていないかを確認する必要があります。
⑶ 「労災隠し」に遭った場合
もし、事業者が労災保険の適用に応じてくれない場合や労働者死傷病報告に虚偽の記載をして労働基準監督署に提出してしまっているような場合には、「労災隠し」に遭ったといえます。
このような場合には、自ら労働基準監督署に相談の電話をするべきです。
もっとも、労働基準監督署も相談の電話だけでは動かないことが多いです。
そこで、「労災隠し」に遭った場合には、迷わず弁護士に相談・依頼し、事業者及び労働基準監督署に働きかけをしてもらうべきです。
労災事故から時間が経てば経つほど、事実関係はあいまいになります。その結果、後から事業者に対し、損害賠償請求を行うことを決意しても、不利な事実が固まってしまっており、十分な損害賠償請求を行えない可能性があるからです。
3 入院・通院中の手続
⑴ 治療と休業による損害について
労災事故による入院・通院中は、治療に専念する時間となります。
この間、労災保険から治療費は全額支給されますので、治療費に関する心配は必要ありません。
また、怪我で働けない場合には、休業補償給付といって、事故前の平均賃金の80%が労災保険から支給されます。この80%のうち、60%が怪我による休業に対する補償保険金で、残りの20%は福祉事業によるお見舞金です。
もし、会社に対し、損害賠償請求を行う場合には、お見舞金の20%を除く60%部分については、労災保険から支払われていると考えることになるので、残りの40%部分のみを会社に請求していくことになります。
例えば、労災事故前に30万円の給与を受給していた場合には、労災保険から8割に当たる約24万円が働けるようになるまで毎月支給されますが、会社に休業損害を請求する場合には30万円と24万円(80%)の差額である6万円ではなく、30万円と18万円(60%)の差額である12万円を1ヵ月当たり請求することができるということです。
⑵ 労働基準監督署の調査について
また、労災事故から数カ月以内の間に労働基準監督署による労災事故の調査・指導などが行われることがあります。
この労働基準監督署の調査・指導にあたって、被災労働者に聴取を行うことも稀にありますが、多くの事故の場合、被災労働者への直接の聴取までは行わずに終了します。
そのため、被災労働者の多くは、自分の事故について労働基準監督署が事業者に対し、指導などを行っていたとしてもその事実を知ることはありません。
このような事実は労働局に個人情報開示手続きを行い、初めて判明することが多いです。
そこで、この時点で弁護士に依頼しているような場合には、依頼を受けた弁護士は、事業者に対する労働基準監督署の対応を調査し、今後の損害賠償請求の準備を行うことになります。
4 治療終了後の手続
⑴ 治療の終了
治療が終了することを症状が固定するといいます。
なお、症状固定とは、あくまで症状が固定し治療を継続する必要がなくなることを意味するのであって、事故前と同じ健康な状態に戻ったことを意味するわけではありません。
労災事故の場合、重症となる場合が多く、症状固定として治療が打ち切られたとしても、神経痛や関節の可動域に制限が残るような場合が数多くあります。
症状固定の時期は、主治医と被災労働者と話し合いにより決まることが多いですが、治療が長期化する場合などは労働基準監督署の判断で一方的に治療を打ち切ることもあります。
この場合を「認定治癒」といい、基本的には労働基準監督署の判断で行われます。
⑵ 治療終了後の障害補償給付の手続
治療が終了した際に、必ず行うべき手続として、労災保険の障害補償給付の請求手続があります。
上述したとおり、症状固定(認定治癒含む)したとしても、元通りに体が戻ることは珍しく、痛みなどはどこからしら残ることが多いです。
このような治療終了後の後遺症について、労災保険では障害補償給付として、残った症状に応じて補償金が支払われます。
そこで、被災労働者は、症状固定後に速やかに障害補償給付の手続を行い、事故の後遺症について補償金の請求を行う必要があります。
障害補償給付の手続では、後遺症が認められれば、1級から14級までの14段階のいずれかの後遺症の等級が認定されます。
この後遺症の等級は、事業者への損害賠償請求を行っていくうえで、損害算定の指標となりますので、極めて重要な意義があります。
5 会社への損害賠償請求
以上で述べた流れに従い、治療が終了し、後遺障害等級が確定したら、いよいよ会社への損害賠償請求を行うことになります。
損害賠償を行う場合の主な損害項目は、休業損害の40%部分、入院・通院に対する慰謝料、後遺症障害が残った場合の後遺症に対する慰謝料、及び後遺症により身体が不自由になったことに対する逸失利益です。逸失利益とは、後遺症が無ければ将来得ることができていたであろう利益のことです。
なお、会社への損害賠償請求は治療中であっても行うことは可能ですが、後遺障害が確定しないと損害額の全体が確定しないため、先行して治療中に損害賠償請求を行ったとしても、スムーズに解決を図れないことが多いです。
そのため、後遺障害が確定した後に、損害賠償請求を行うことが通常です。
6 最後に
以上でご説明したとおり、労働災害に被災し、会社に対し、損害賠償請求を行う場合には、事故直後の対応から始まり、治療、症状固定、後遺障害申請と様々な局面があります。
このような様々な局面を一人で解決していくことは非常に困難といえます。
もし、ご自身やご家族の労働災害で疑問に思うことがあれば、弁護士等の専門家に相談されることをおススメします。
なお、当事務所は、労働災害に専門特化し、大阪・近畿を中心に全国各地の事案を扱っており、経験も豊富です。
また、完全成功報酬制を採用しているため、事故直後に経済的なご負担をかけることもありません。
相談は無料ですので、労災事故の手続について、ご不安な点がある場合には、お気軽にお電話またはメールでご相談ください。微力ではありますが、お力になれると思います。